
収益物件を相続対策として検討する前に、評価方法と保有リスクを分けて確認しましょう。
預貯金と不動産では相続税の評価方法が異なります。ただし、不動産を購入すれば必ず相続税が下がるわけではありません。物件の用途、賃貸状況、取得時期、家族の財産構成によって結果は変わります。
賃貸マンションやビルを検討するときは、相続税評価だけでなく、購入価格、借入残高、納税に使える現金、空室や修繕の費用、売却にかかる時間も確認する必要があります。
本記事では、貸家建付地と貸家建物の評価、居住用区分マンションと一棟物件・事業用テナントの違い、保有と承継の判断項目を整理します。個別の税額はここでは算出しません。
土地・建物の評価は課税時期の状況を確認して適用します。税務上の条件は国税庁の一次資料を参照し、個別案件は税理士に確認してください。
収益物件を相続対策に使うときの評価方法
現金・預貯金と不動産は評価方法が異なる
現金・預貯金と土地・建物では、相続税を計算するときの評価方法が異なります。この違いだけで購入の有利・不利は決まりません。売買価格、取得費用、借入、保有中の収支を別に比較します。
土地は所在地や利用状況に応じて路線価方式または倍率方式などで、建物は固定資産税評価額などを基に評価します。市場の売買価格に一律の割合を掛けて相続税評価額を出すことはできません。
例えば、同じ購入価格の物件でも、土地と建物の内訳、敷地権、賃貸状況、課税時期の評価資料によって相続税評価は変わります。購入価格と評価額の差を、そのまま節税額として示すこともできません。
評価額だけで判断せず、手元資金をどれだけ残せるか、借入を返済しながら保有できるか、必要時に売却できるかを確かめます。
貸家建付地・貸家建物と賃貸割合
賃貸されている建物とその敷地には、一定の条件で貸家・貸家建付地の評価方法が使われます。土地と建物の評価は別々に確認し、賃貸の事実と課税時期の状況を先に確かめます。
国税庁の貸家建付地の評価では、貸家の敷地である宅地を「自用地としての価額-自用地としての価額×借地権割合×借家権割合×賃貸割合」で評価します。貸家建物の評価は、家屋の固定資産税評価額から「その価額×借家権割合×賃貸割合」を控除します。割合は対象地・用途・賃貸状況で確認し、一律の減額率として扱いません。
賃貸割合は、独立して賃貸できる各部分について、課税時期に賃貸されている部分の床面積を基に計算します。一時的な空室を賃貸中として扱えるかも継続賃貸や募集状況などの事実で判断します。社宅など貸家建付地にならない場合があります。国税庁 No.4614で対象要件を確認してください。
区分所有の居住用マンションには、令和6年1月1日以後に相続・遺贈・贈与で取得する対象財産について国税庁 No.4667の評価方法があります。一棟所有の賃貸マンションと事業用テナントは同通達の対象外です。賃貸ビルでも貸家・貸家建付地の適用は利用状況ごとに確認します。
収益物件を保有・承継するときのリスク
空室・修繕・災害・金利・換金の確認
相続税評価が低くなる可能性と、物件投資としての収支は別の問題です。購入を検討する前に、空室、家賃低下、修繕、災害、借入金利、売却までの時間を点検します。
評価額の差だけで購入を決めると、保有中の赤字や相続時の納税資金不足を見落とします。物件の資料に基づき、返済後キャッシュフローと売却時の手取りを複数条件で比べます。
主な確認事項は次の5つです。
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空室・家賃下落:入居がなければ賃料収入は減ります。課税時期の賃貸割合にも影響する場合があります。周辺賃料、募集期間、入居率を確認し、収入減でも返済を続けられるか試算します。
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老朽化・修繕リスク:建物は時間とともに劣化します。給湯器の故障、エアコンの交換、外壁塗装など、突発的または計画的な修繕費用が発生します。これらの費用を想定せずに利回り計算をしていると、実際の収支は大きく悪化します。対策は、長期修繕計画がしっかりしている物件を選び、毎月のキャッシュフローから修繕積立金を確保しておくことです。
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災害:自治体のハザードマップと建物の状態を確認し、保険の補償範囲・保険料・自己負担を比較します。
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流動性:不動産は必要な時期に希望価格で売れるとは限りません。近隣の成約状況、売却費用、借入残高を確認し、相続税の納税に使う現金を物件とは別に確保できるか検討します。
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金利上昇リスク:ローンを組んで物件を購入した場合、将来的に金利が上昇すると返済額が増加し、収支を圧迫します。対策としては、金利が上昇しても耐えられるよう、自己資金を多めに入れる、繰り上げ返済を計画するなど、余裕を持った資金計画を立てることが重要です。
これらのリスクは計画に織り込めますが、なくすことはできません。相続税評価だけでなく、家族が保有を続けられるかを判断します。
物件を比較するときの確認項目
物件選びでは、賃貸需要、取得・保有費用、管理状態、売却のしやすさ、家族内での承継方法を同じ表で比べます。相続税評価の低さだけを選定基準にしません。
空室で収支が悪化したり、売却に時間がかかったりすれば、評価上の差があっても家族の資金計画は難しくなります。購入前に家賃表、修繕履歴、管理資料、借入条件、近隣の取引を確認します。
特に次の3項目を、物件ごとの資料で確かめます。
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立地と賃貸需要:周辺の賃料・空室・人口・交通を調べます。駅距離や都市名だけで将来の入居・資産価値は保証できません。
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物件種別と承継:区分マンション、一棟賃貸マンション、ビルでは権利関係、管理負担、売却先、相続人間の分け方が異なります。区分所有であっても公平に分けられるとは限らず、取得費用と家族の希望を確認します。
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建物の管理状態:構造、築年数、修繕履歴、管理規約・長期修繕計画など、物件種別に応じた書類を確認します。新築・中古の有利不利は価格と将来費用によって変わります。
賃貸需要、換金性、管理状態に加え、相続時に必要な現金と借入の返済余力を確認してから比較します。

区分マンションと他の相続対策を比較する
居住用区分マンションの評価方法と対象外
令和6年1月1日以後に相続・遺贈・贈与で取得した居住用の区分所有財産には、国税庁 No.4667の評価方法が適用される場合があります。通称「タワマン」だけでなく、通達の対象要件に該当する居住用区分マンションを確認します。
補正率の判定は通達に定める評価乖離率・評価水準などの算式で行います。個別の売買価格に単純に一定割合を掛けて評価額を決める方法ではありません。
事業用テナント、区分建物の登記がない一棟所有の賃貸マンションなどは、この居住用区分所有財産の通達の対象外です。貸家・貸家建付地の評価を検討する場合も、用途と賃貸状況を別途確認します。
購入価格と相続税評価額の差は、税額の差や投資利益を表しません。税務上の適用と保有収支を分けて検討します。
生前贈与・生命保険・現金との比較
不動産以外にも生前贈与や生命保険などの選択肢があります。相続人、資産内訳、承継の希望、納税資金を整理し、制度の適用条件と費用を比べます。
贈与や保険の税務上の扱いは契約・取得時期・受取人などで変わります。この欄では一律の控除額や節税成果を約束せず、具体的な適用は専門家に確認します。
具体的に、どのような場合にどの対策が有効か比較してみましょう。
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収益物件を検討するときの確認:
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購入費用を支払っても、相続税の納税や生活に必要な現金を確保できるか。
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物件の形態と賃貸状況に応じた評価方法を確認できるか。
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家賃・修繕・金利・売却価格の変動に耐えられるか。
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家賃収入から経費と借入返済を差し引いた後の資金収支を確認できるか。
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生前贈与を検討するときの確認:
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贈与する財産、受贈者、時期と税務上の取扱いを確認したい。
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住宅・教育資金などに関する制度を検討する場合、対象者・期限・使途の要件を確認できる。
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相続人以外への移転も含め、家族の承継方針を整理したい。
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不動産のように運営の手間がかかるものは避けたい。
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生命保険を検討するときの確認:
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相続税の納税に使える現金が不足しないか、保険料と受取額を比較したい。
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契約者・被保険者・受取人の組合せと、受取人ごとの税務・分割上の扱いを確認できる。
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相続人ごとに必要な資金と受取方法を整理したい。
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非課税の適用要件や保険料負担を確認できる。
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例えば、預貯金と不動産を併せ持つ家庭では、購入に充てる現金、納税用の現金、保有中の修繕予備費を別々に見積もります。贈与や保険を併用するかは家族構成と制度要件に応じて判断します。
各手段の税務上の効果だけでなく、費用・換金性・承継のしやすさを比較してください。
相続対策を検討する7つの手順
相続対策は財産の把握から始め、家族の承継方針、資金計画、税務条件、物件の管理まで順に確認します。各家庭に同じ結論を当てはめるための手順ではありません。
税務・法務・物件収支は異なる資料と専門性が必要です。評価の前提と家族の希望を整理し、必要に応じて税理士などの専門家と照合します。
それでは、具体的に7つのステップを駆け足で見ていきましょう。
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STEP1:現状把握と相続税試算:預貯金、有価証券、不動産、生命保険、債務を一覧にします。相続税の要否・申告は個別条件に左右されるため、国税庁の対象年度資料を参照し、必要なら税理士に確認します。
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STEP2:遺産分割の方針決定:誰に何を残すか家族で話し合います。不動産の共有・売却・現物での分割にはそれぞれ費用や調整が伴います。区分マンションを複数買えば必ず公平になるとは考えず、家族の希望と換金性を確認します。
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STEP3:資金計画と借入:自己資金、購入費用、借入返済額、相続税の納税資金を別に把握します。相続開始時に存在し確実と認められる借入金などは、要件を満たせば債務控除の対象です(国税庁 No.4126)。借入自体が節税や資金余裕を保証するものではありません。
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STEP4:開始時期の決定:財産評価、物件調査、家族との協議には時間がかかります。「何年以上保有すれば必ず認められる」という一律の年数は置かず、取引の目的・価格・状況を記録して専門家に確認します。
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STEP5:税務条件の確認:物件形態、課税時期の用途・賃貸状況、居住用区分所有財産の対象要件、借入の内容を一次資料と照合します。評価結果や税額を公開記事だけで確定しません。
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STEP6:相談先の確認:税額・申告は税理士に、物件の管理や売却可能性は実際の資料を扱う事業者に確認します。法人保有を考える場合は論点が異なるため、法人化の記事も参照してください。
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STEP7:実行と管理:購入する場合は契約・借入・賃貸管理の条件を確認し、保有中も収支、修繕、賃貸状況、税制を定期的に見直します。賃貸所得の確定申告については不動産所得の申告記事を参照してください。
7つの手順で情報を整理した後も、個別の税額と物件収支は別々に検証してください。
まとめ:評価方法と納税資金を分けて確認する
収益物件による相続対策は、貸家・貸家建付地、居住用区分マンションなどの適用条件を確認するところから始まります。評価額だけでなく、購入価格、借入残高、保有費用、納税用の現金を一緒に確認します。
重要なポイントを改めて整理します。
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不動産の相続税評価は、物件の用途・権利・賃貸割合・課税時期によって異なる。
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空室、修繕、借入返済、売却に要する時間を見込み、納税資金を別に確保できるか確認する。
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居住用区分マンションと一棟物件・事業用テナントでは、適用する評価方法が異なる。
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申告、法人化、個別の税額はそれぞれの条件を一次資料と専門家で確認する。
評価の試算と家族の承継方針を早めに整理すると、購入以外の選択肢も比較できます。
目的は税額だけを小さくすることではなく、家族が必要な資金を確保し、保有・売却を選べる状態にすることです。
相続税の申告・納税は原則として死亡を知った日の翌日から10か月以内です(国税庁 No.4205)。個別の評価と申告は税理士に確認してください。
物件を検討する場合、不動産JPのCFシミュレーターで家賃・空室・修繕・借入返済を変えて保有収支を比べられます。このツールは相続税額を計算・保証するものではありません。